ノビレチンとは


世界一の長寿国といえば日本。その日本の中でも一番の長寿の里といわれるのが沖縄県の大宜味村です。ということは、大宜味村 は世界一の長寿村。いったい長寿の秘密は何なのかと世界中の注目を集めており、研究の結果たどり着いたのが、この村特産の シークワーサーに含まれる抗認知症成分ノビレチンです。
 
アルツハイマー病脳においては、いくつかの重要な神経病理変化が観察されますが、その代表的な特徴の一つである老人斑は、分子量4 kDa程度のアミロイドβ蛋白(Aβ蛋白)が線維化し細胞外に沈着したものです。老人斑に加えて、タウ蛋白リン酸化による神経原繊維変化や、広範で高度な神経細胞脱落も認められます。遺伝的要因によって発症する家族性アルツハイマー病の研究から、患者の脳の中では、アミロイド前駆体タンパク質より、老人斑を形成するAβ蛋白(Aβ1‐40およびAβ1‐42)が異常に多く生成されることがわかってきました。この中でAβ1‐42は非常に毒性が強く、特に悪い作用があることが最近の研究からわかってきました。すなわち、これらの原因の除去あるいは修復がアルツハイマー病根本治療薬に求められている効果ということができます。海馬における長期増強(LTP)は記憶と学習において重要なメカニズムのひとつとされています。また、アルツハイマー病などの認知機能障害などにおいては、様々な要因によりシナプス可塑性障害が起こり、その結果LTPが抑制されることによって記憶障害が引き起こされることが報告されています。このシナプス可塑性に重要な分子標的のひとつがcAMP応答配列結合タンパク質(CREB)のリン酸化とそれに続くCRE依存的転写活性です。
当研究室では、培養神経細胞および6種類の学習記憶障害モデル動物を用いて、ノビレチンの効果を検証。「有効である」とのエビデンス(科学的証拠)を得ることができました。
神経細胞のモデルとして汎用されるPC12D細胞(ラット副腎髄質細胞)にノビレチンを処理したところ、神経細胞突起伸展作用が発見されました。また、ノビレチン処理により突起伸展作用に重要な役割を果たすシグナル細胞情報伝達分子であるERKやCREBが活性化することも見いだされました。これらの細胞情報伝達分子はアルツハイマー病などの認知症における記憶障害の改善に重要であるということが知られているため、ノビレチンは記憶障害改善作用を持つことが示唆されました。
また、動物実験の結果から人間の脳神経疾患に対する薬物の治療効果を的確に予測するには、実験方法の確立とともに、より人間に近いモデル動物が欠かせません。そこで役立つのが、Aβの蓄積など人間の脳で起こる一連の病理を再現しうるモデル動物です。私たちが用いた6種類の学習記憶障害モデル動物の中から、「APPトランスジェニック(Tg)マウス」と呼ばれるモデル動物を使った実験を紹介します。APPというのはアミロイド前駆体タンパク質のことで、トランスジェニックマウスとは遺伝子操作により外部から特定の遺伝子を導入して作られたマウスのことです。
マウスは、10ヵ月齢ぐらいから、脳の中の海馬と呼ばれる学習記憶に重要な役割を果たす部分に老人斑ができるようになります。そこでAβが蓄積する前の9ヵ月齢から、ノビレチン10mgないしは50mg(体重1kgあたり)を4ヵ月間、1日1回投与しました。その結果、不溶性のAβ1‐40量は約60%減少し、不溶性のAβ1‐42量は約50%減少しました。また、Aβの沈着もノビレチンの投与により50%程度減少していました。これらの所見は、ノビレチンが脳内Aβの蓄積に対しては予防効果を発揮し、Aβが既に蓄積している場合には治療効果を有することを示唆しています。
マウスの記憶力を調べる実験も行っています。実験動物における海馬の学習・記憶機能を評価する方法としてよく行われる「恐怖条件付け試験」と呼ばれる試験です。
マウスを実験装置に入れ、電気刺激を与えて恐怖体験をさせ、これを反復します。健康なマウスであれば自分が受けた電気刺激を記憶しているため、すくみ行動を起こします。ところが、アルツハイマー病と似た症状を示すマウスは、以前のことを忘れているので、すくみ行動を起こしにくくなります。
ノビレチンを投与したマウスでは、投与せずアルツハイマー病が進行したマウスに比べ、有意にすくみ行動が回復し、記憶障害が改善されていることがわかりました。
このような動物実験の成績から、ノビレチンがアルツハイマー病の根本治療薬となる可能性があると考えられ ます。